Sonatine for little Therese



原作:ヴァニタスの羊(RococoWorks)
原曲:Eyes to Eyes
作曲:松本慎一郎(M.U.T.S. Music Studio)
アレンジ:chiquchoo(Presence∝fTVA)


楽譜音源


 RococoWorks最後の作品、「ヴァニタスの羊」。ついにカタハネの奇跡が再来することはなかったなぁと思うのは私だけではないでしょう。そのヴァニタスの羊より「Eyes to Eyes」をソナチネピアノアレンジしたのがこの曲です。曲名「Sonatine for little Therese」は意訳するなら「テレーゼのソナチネ」ですが、この題名にはずっと頭に「(仮)」がついていました。そしてそのまま曲名となってしまったのですね。

 ではその「(仮)Sonatine for little Therese」はどこから来た名前なのかというと、ヴァニタスの羊の体験版です。体験版でのこの曲のイメージは完全にテレーゼでしたからね。序曲形式に限りなく近いソナチネにしたのもそのためで、「ヴァニタスの羊」の物語の序章である体験版の部分を完全に意識しています。体験版で「おっ」と思って作品の発売に先行してアレンジを始めたのですが、何度かの発売延期に伴ってこの曲は、発売前に完全に出来上がってしまいました。

 そしてちょうどその頃、私が自身のアレンジを磨くために行なっていた1つの探求に、答えが出たのです。構成重視型のアレンジをより突き詰めるために、私はストーリー重視型で成功したと言えるノベル・アドベンチャーゲームを対象に、作品の世界設定はどのように構築されたのかを本気で調べていました。そしてその答えが出たのが、このアレンジがほぼ出来上がったのと同時期。対象とした作品には、「カタハネ」も含まれていました。そしてその答えは、残酷な解答も同時に導き出しました。「カタハネは奇跡」「カタハネと同じ世界観の構築手順が取られた場合、『奇跡』なくして破綻せずに済むことはない」 そしてヴァニタスは残念ながら、体験版の範疇で既に、その「奇跡」を生み出す要因がないのが明らかでした。

 その時私は「ヴァニタスの羊」への“関心を解く”ことを決めました。そして、体験版部分だけから付けられた題名と形式を、そのまま固定しました。捨ててしまうのにはあまりにも原曲も、アレンジの出来も良かったのですね。


 結局RococoWorksは本作に続く作品を出すことはなく解散しました。後でストーリーを調べてみたら、ほぼ私が予想した通りの破綻を起こしていました。この探求結果は私のアレンジの構築段階ではそれなりに役だっていて、当初の目的を発揮しているのですが、「作品のごく初期の世界観構築過程」というくくりで結果を出しているため、転用することで体験版の内容から本編の出来を結構な精度で予測することができます。ただ、こちらは予測できたからといってどうにもすることはできず、RococoWorksさんみたいに期待しているブランドの作品が失敗するのが見えてしまって、その通りになっていくのを見ているのは正直複雑な気持ちです。



・楽曲解説

 この曲は原曲のクオリティも高い上にアレンジも上手くまとめることができました。元を明かさずに弾けば新古典のソナチネとしてクラシック曲に混ぜて弾いてしまえるでしょう。なお、題名の通りちゃんとソナチネになってます。

 先程少し挙げた「序曲形式」について触れておきましょう。ソナタ形式の基本形といえば A-(転調して)B-展開部-A-(そのままの調で)B ですが、この展開部を省いたものを序曲形式と言ったりします。つまり A-(転調して)B-A-(そのままの調で)B ですね。このままだと少し寂しいために、序曲形式の場合は所謂「前半部の繰り返し」が省略されにくい傾向があり、その場合 A-(転調して)B-A-(転調して)B-A-(そのままの調で)B という形になります。ではこの曲はというと、繰り返しを省略しない場合 A-(転調して)B-A-(転調して)B-ちょこっとだけ展開部-A-(そのままの調で)B であり、展開部が1:39-1:56と非常に短いため序曲形式のイメージもそれなりに残っている構成となっています。

 第一主題/第二主題の対立を明確に打ち出さない構成も、この曲が軽快に流れていく1つのポイントになっています。一応形式上はちゃんとソナタ形式として必要な要素を省略せず揃えているのにも関わらず、重厚な「ソナタらしさ」はなく、あくまでも軽快なソナチネに仕上がっています。

 もう少し細かい部分まで踏み込むなら、57&59小節目の工夫が出てきますね。ここは右手と左手の合わせ技で第一主題を登場させています。「展開部では提示部の主題を活かす」のはソナタ形式の王道ですが、こういう形は結構珍しいはず。強く主張せずに、さり気なく潜り込ませています。また120小節目のこの位置で第一主題末尾部分を再帰させている辺りも、気付くと「いかにも」なポイントと言えるでしょうか。



・演奏の手引き

 あまりに王道的な曲なので、わざわざこの場で語ることは殆どないですね。この手の曲のセオリー通りに鳴らせばばっちり鳴ってくれます。逆に言えば最低でも「ソナチネ・アルバム」程度には触れた人でないとこの曲のノリは掴みにくいとも思います。

 唯一その手の曲と異なるのは、強弱記号とスラーがついていない部分でしょうか。が、自然に弾いてしまえばそれで十分に抑揚は付いてくれますし、旋律の切れ目も分かりやすいので問題ないでしょう。楽譜を印刷して自分で書き込んでみると分かりますが、その手の記号をごちゃごちゃ付けると逆に分かりにくくなってしまうのですね。こういう書き方が許されるのは同人クラシック故です♪


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