新生! 三岐鉄道北勢線


2005年11月23日





以前快速みえで津の友人宅へ行く途中、桑名で妙な電車を見た。その電車は車体の高さほどもあるパンタグラフを載せ、断面が縦に長い。そして、車体が小さい。それこそ、三岐鉄道北勢線。全国では数えるほどとなってしまったナローゲージの鉄道だ。

ナローゲージとは、通常の線路より幅が狭い線路のこと。日本の在来線の多くは1067mmだが、北勢線は762mm。おおざっぱに、1000:750 = 4:3で在来線の3/4の線路幅である。

かつては日本の至る所で見られたが、今やここ三岐鉄道と近鉄の2路線、黒部峡谷鉄道ぐらいしか残っていない。(後述するが北勢線は最近まで近鉄だった)

この日、快速みえで桑名まで来た。北勢線のホームはJRのホームから見て向こう側にある。改札を出て200m。なんと、アーケードの一角にある北勢線の乗り場は「西桑名駅」だ。

駅舎は新しい。新品の券売機や自動改札機がある。待合室も新しく冷暖房が設置してある。これは三岐鉄道に転換してからのものだ。その経緯は後述する。

改札を出て驚いた。起点の駅にもかかわらず側線なしの棒線。ホーム下の線路はまるで遊園地の豆汽車のように小さい。だが、輝いている。



西桑名駅 側線もない棒線駅。左にJRと近鉄の線路が見える


西桑名を出て300mはJRや近鉄と並んで走る。その後である。線路は急に右へカーブしやや急な勾配を上り、JRや近鉄と直角にクロス。ここを通過するとき、ギシギシ音を立てる。

もうこの鉄道のウリが出てきた。これほど急な曲線と急な勾配が一緒になっている線路は、見たことがない!

JRや近鉄とは別方向に走り出す。線路のすぐ両脇は民家。地方の私鉄によく見られる風景だが、北勢線は建物がより密集している所を走る。窓から壁を触れそうだ。

西桑名の隣駅、馬道は交換可能な駅。そこのポイント通過制限速度は15キロや20キロ。自転車なみの速さだ。ポイント通過のときも、ギシギシいうと同時に車体をくねらせる。


大きな道路の直下にあるのが在良(ありよし)駅。ここで列車交換。



在良(ありよし)で列車交換 列車本数はローカル私鉄にしては多い


建物が密集したところを抜け、やや開けたところを走る。線路はまっすぐだが、なかなかスピードがあがらない上騒音が大きい。自転車で全速力でこげば並走できそうだ。



東員駅?大泉駅?どちらか忘れた。両方とも新しい駅で似たつくり。バックにかすかに見える山は藤原岳で、そこで産出される石灰石は員弁川をはさんで向こう側の兄弟路線、三岐線が輸送している。


川の手前にはたいがい急なカーブがある。川に対して直角に橋をかけることで橋を短くするためだ。だが、今から見れば時代遅れな線路の敷き方で、スピードアップの妨げとなっている。

気が付けば車窓には畑や農家が多くなっていた。山に向かっている証拠だ。



楚原に着く。列車の半分はここ止まり。


楚原で3度目の列車交換。やはり列車密度は高めだ。


北勢線は2003年4月までは近鉄の1路線だった。大きな赤字のため、近鉄は北勢線の廃止を打ち出した。言うまでもなく沿線からの強い反対があった。そこへ三岐鉄道が建て直しに名乗りをあげた。

三岐鉄道とは前述のように員弁川(いなべがわ)と共に北勢線と並行する鉄道。北勢線とは数キロしか離れていないので客の奪い合いが起こらないかと言われたが両者の間にある員弁川により生活圏が分かれているので問題ないと分かった。こうして、2003年4月から三岐鉄道が北勢線を引き継ぎ経営することとなった。

経営引継ぎの後矢継ぎ早に、三岐鉄道は高速化に着手した。北勢線は起点の西桑名から終点の阿下喜(あげき)まで20.4mkなのだが、近鉄時代は50分かかった。平均時速は25km程度で自家用車と比べて遅い。高速化は北勢線建て直しの重要な要素だった。

高速化第1段階として、駅の統廃合をした。利用者の少ない六石、上笠田の2駅を廃止、大泉東と長宮の両駅を大泉駅に統合、六把野、北大社の2駅を東員駅に統合した。車庫がある北大社駅は信号所となった。坂井橋駅は移動の上、星川駅と名を変えた。

駅を統廃合すると同時に、各駅のリニューアルを行った。自動改札機や券売機の設置、バリアフリー化、パーク&ライド用の無料駐車場の設置など。統廃合でできた大泉と東員も、もちろんそれらの設備を持つ。そのため、どの駅も新しく美しかった。これらの改良により、北勢線の利用客は確実に増えているという。

そして、JRや近鉄の桑名駅から200mほどのところにある西桑名駅の移動や最高速度の引き上げ(45km -> 70km)なども計画されている。




話を旅に戻そう。列車の半数が折り返す楚原を過ぎれば、車窓には員弁川の河原が広がる。向こうには藤原岳がそびえ、川の向こうには兄貴の路線である三岐線が通っている。客は4両に対し5人程度だろう。車内には出発時から変わらない走行音だけが響く。



窓には晩秋の河原が広がる




しばらく走って林に入る。勾配が急になってきた。阿下喜は近い。


林を抜け下り坂を下れば阿下喜の町が見えてくる。同時に、藤原岳も目の前に迫ってくる。



阿下喜駅も改良中 2番線を新設している。同時に駅舎も建て替え。

この終点阿下喜まで乗っていた客は片手で数えられるほど。駅前には何台かのタクシーが客を待っていたが、誰も乗らない。タクシーの昼寝はあと1時間延長のようだ。

阿下喜駅はリニューアルの最中。2番線を新設し、駅舎を建て替え。変身後には列車の増発ができそうだ。そうすればもう少しこの駅は賑わいを取り戻すだろう。

それにしても静かな駅だ。阿下喜の町も静かだ。駅のすぐ近くの員弁川沿いの道を歩けば、名古屋の騒々しさを忘れられる。



晩秋の空の下、員弁川沿いを歩く



北勢線の生まれ変わりをアピールする「新生!三岐鉄道北勢線」の看板




阿下喜駅に進入する電車 前半分と後ろ半分で塗装が違うのが面白い




駅を楚原側から見る 右のホームが新ホーム 左方に見えるのは復活したナローゲージSL用線路




復元されたターンテーブル ナローゲージ用なので小さい




駅前にある北勢線電車の模造 耕運機にボディーをかぶせたものだった



員弁川を渡ったところから見た北勢線は絵になる風景の中にいた。



草原の向こうを北勢線の黄色い電車が走る


しばらく阿下喜の町をぶらつき、帰りの電車に乗る。



このとき気付いたのだが、車両に合わせてホームの幅までもが在来線より狭い。ウナギの寝床のようだ。




筆者の目線で見た電車の中 Denkoは身長172cmだが、天井がすぐ上にある。 気をつけないと出入り口で頭を打ちそうだ。


三岐鉄道北勢線、なかなか面白い。また来よう。そのときは阿下喜駅は新しくなり今よりにぎわっているだろう。


END


Back