無何有の郷 〜Deep Mountain



原曲 : 「東方妖々夢」 より 「無何有の郷 〜Deepmountain」
作曲 : ZUN ( 上海アリス幻樂団 )
アレンジ : Denko ( Presence∝fTVA )


楽譜音源


 Denkoが初めてプレイした東方は妖々夢。はじめの10回ほどはゲームの感覚がつかめずにほとんど2面あたりでゲームオーバーした。そんなわけで、1面道中のこの曲は、東方曲の中で最初に頭に入った曲となった。割と軽快な曲で、これから冒険の始まりだと思い起こさせる曲だ。
 アレンジは、Denkoらしく(?)長調と短調とが入り混じる。アレンジを始めた当初はちくちゅーから長調短調の転調はやめておけといわれたが、かまわず続けた。最後には吉と出たと思っている。
 まず冒頭では静かにメインテーマが歌われる。ここはそれほど難しくないだろう。あまりもたもた弾かずに指示にあるように中ぐらいのテンポで弾くとよいだろう。よりいっそう静かになり、50小節目で不意にナポリ6の和音(ロ短調でのCmajコード)が現れると、低音でドラム連打が始まり、ドーンと強打されてアルペジオが弧を描くとテンポアップ。ここからが本番だ。ロ長調でメインテーマの変形が出てくる。こいつがなかなか気持ちいい。空を飛んでいる気分になることさえある。
 力強く和音が鳴り、低音連打が鳴る。さらに曲が展開する予感をさせる。ここでメインテーマが疾走感をもって再登場。この、長調から短調への移り変わりがかっこいい。今回のアレンジのウリのひとつだと思っている。この73小節目から、左手は少し見慣れない形の伴奏となる。これはちくちゅーのアイデア借りたものだ。彼の左手は専らベースを中心に弾いているのだが、単純なオクターブ連打ではなく、上下の音を入れたり抜いたりしている。このCDに収録されている東方RPAには曲の性格上あまり見られないが、彼がアレンジした「残酷な天使のテーゼ」や「ETERNAL BLAZE」といったアニメのOP曲にはっきりとした例が見られる。彼の左手ベースの特徴は、ドラムやベースギターを連想させることだ。まずクラシックには見られない手法で、かといってポピュラーミュージックのピアノでもなかなか見つけられない。初めて耳にしたときは本当に驚いた。こんな躍動感あふれるベースがあったものかと。
 このアレンジで初めてちくちゅーの左手ベースを取り入れたのだが、本家のものとは少し雰囲気が違う。ベースやギターやドラムの擬似というよりは、音の波に近い気がする。ちなみに、最近になって、彼が逆輸入したいと言ってきた。これが仲間とアレンジをやる面白さだろう。
 話を曲の内容に戻して、82小節目から右手がオクターブとなる。オクターブの内部に和音の第5音を挟み、右手と左手を合わせて第5音が多めになるようにして、少々固めの音とした。ここ以降、しばらく右手はオクターブ続きで、しかも、突発的に大きな移動が伴うので、手が小さいと弾きにくいかもしれない。Denko自身にとっても、オクターブ奏法のいい練習となった。きついのは左手も同様で、72小節目以降からずっと十度の広がりがあるために親指が痛くなる。
 やや落ち着いて前奏を挟み、115小節目から長調テーマが再現される。ここでは幾分落ち、甘く奏する。激しいオクターブ奏法などによる指の疲れを癒し、後半戦に備えるところ。ただ、テンポはあまり落とさない方がいいだろう。再び長調から短調に戻るわけだが、1回目とは同じ手法は使わずに、三度落ちる転調で戻る。
 136小節目からの激しく活気のあるメインテーマは、72小節目からと似ている。しかし、全く同じではない。コピペ的なのはDenkoの好みではない。再現部であっても提示部とは何らかの違いを持たせるのがポリシーだ。
 思う存分オクターブで弾いた後、168小節目から徐々に静かになる。ここで3度目の長調テーマ。どこぞやで耳にしたアルペジオのアーチのあと、豪快に和音を鳴らして終わる。この2発の和音の終わり方はあかみ氏の名アレンジ、「Voyage into a cage...」の影響だ。
 こうやって曲全体を見ると、短調と長調のサンドイッチだと分かる。それも、単純な繰り返しではなく毎回何らかの変化を伴っている。短調部分をA、長調部分をBとすれば、ABABABというロンドもどきとなる。最初のAは50小節目までの部分で、大きなイントロだろう。最後のBは172小節目からで、コーダと言った方がよさそうだ。ロンド形式の奇形と呼ぶとよさそうな構成となった。また、この曲のもうひとつ特筆すべき点として、いくつか異なる旋律が出てきているようで、実は「無何有の郷」1曲だけの旋律しか使っていない点が挙げられる。短調部分はそのままなので分かりやすいが、長調部分もよく見れば短調部分(原曲)とリズムが似ている。それどころか、一部を除きほとんど同じと言っていいかもしれない。

 東方のピアノアレンジの第一号としては、まあまあ満足のいく出来だ。こんな調子で、アレンジしていくぞ。


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